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レスラー Comments (20)
老化のせいではなく、いじったばあいだ。
きょうび、昔と違って、老いに罪の気配がある。
だから、人に見られる職種は「劣化」に抗ってみようとする。
いじり過ぎて、その容貌魁偉が、かえってもてはやされた創始者はMロークではないだろうか。
ダリルハンナもいじって顔が怖くなってそれを武器にしている。
そんな俳優がこれからも少なからず出てくると思う。
不思議なもので、いじると誰もがJocelynWildensteinに似てくる。
画一的に同じ方向へ近づく。
大好きだったデニスリチャーズにもその傾向が見られた。ワイルドシングスの彼女はパラダイスのフィービーケイツみたいにバイラルだったが、ボトックス感が露わである。
もっともわたしは整形した俳優に好感をいだいている。
老いに対抗しようとすること、あるいは、崩壊を止めようとして崩壊するというペーソス、そこには人間味がある──と思っている。
この映画はMロークぬきには成し得なかった。
アロノフスキーもかれが整形ジャンキーであるからこそ起用している。
ハリウッドの栄華からボクサーへ転身し、出戻った。
整形を繰り返し、かつての甘いマスクはどこへやら。
理想と現実のはざまを彷徨ってきた、やんちゃなMロークの美しい成れの果ての姿が、わたしを打つ。
映画の完璧なフォルムとあわせ、この映画のことを思うと、とても胸苦しい。
場末で往年のレスラー仲間とサインに応じるシーン。
客足はまばら。
見回せば老い、老い、老い。
残酷でかなしくて美しい。
老いてなお、ではなく、老いてからの時代を築く俳優は稀だ。Mロークはこの映画だけでそれを築いた。本人がどう思っているか知らないが、もう何も思い残すことはない──そんな映画だと思うがAshby(2015)も良かった。はれぼったい顔に生きざまがある。
マリサトメイは私にとってはいつまでもいとこのビニーの人だが、Mロークとは真逆の意味で完全に生き延びた女優だ。
老いてもナチュラルできれい。
人造老いのMロークと合わせたキャスティングは慧眼だと思う。
完全に名画だと思います。
ただ、皆さんが言ってる通りミッキー・ロークの演技は見応え十分で痛々し過ぎる位ですし、デビュー作が『π』ということで勝手にイロモノのイメージがあったダーレン・アロノフスキーがこれだけ丁寧に登場人物の心理描写をしていて驚きました。
とても感情移入できる作品に仕上がってます。
あとは、主人公とストリッパーのキャシディとの間で、80年代が最高でNirvanaが出てきて暗くなった90年代は最悪だったという主旨の会話がなされるのですが、過去にすがって生きる主人公と現代を生きる娘との間のジェネレーションギャップを各人の家に貼ってあるポスターで象徴的に表現していたのが印象的でした。
主人公の家にはAC/DCのポスターが、娘の家にはVampire Weekend (本作品が撮影された頃だと割とデビューしたて) のポスターが、それぞれ貼られてました。
(関係ありませんが、昔観た映画で最後気になる女の子をデートで誘う時にVampire Weekendのライヴに誘うってのがあって、日本での感覚以上にアメリカではブルックリン勃興の象徴的バンドなんだろうなと思いました。)
あとは、貧困の象徴であるトレーラーハウス、レスラーの代償の補聴器、仲間のレスラーが履くボロボロのブーツ等、観客の気持ちを暗くするための小道具がたくさん出てきて、ハンドカメラで撮られたと思しき割とブレる映像を混ぜながら割とリアルに描写されておりました。
スーパーな映画ではないと思いますが、見る価値は十二分にあると思います。