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マンティコア 怪物 Comments (6)
第35回東京国際映画祭にて、怪作『マジカル・ガール』のカルロス・ベルムト作品が観られると聞けば行かないわけにはいかぬ。ということで、いざ鑑賞してみたら、『マジカル・ガール』ほどトリッキーではないと見せかけて、思わぬところを攻めてくるとんでもない映画だった。
トリッキーではない、と書いたのは、プロットが捻くれてるわけでも、複数のプロットが同時進行するのでもないからで、あくまでもオーソドックスに、内気な主人公の恋物語を描いているように見せかける。
実際、ウェイ系でない人間にはかなり共感度の高いラブストーリーであり、ベルムト監督にこんな映画も撮れるのかと幅の広さに驚いたくらいだ。ところがベルムトは、内気で純朴に見える人間が、裏表があるというわけでもないのにだが、どれだけ最低最悪になれるのかを暴いていく。「物語の主人公ってきっとこんな感じ」という観客の先入観を弄んでいるとも言える。
監督には他人を弄ぶ気などないのかも知れない。一見平穏な日常と底なしの闇が背中合わせである点ではトッド・ソロンズの『ハピネス』も思い出す。われわれは普段映画を観る際、ざっくりと内容を予想しながら自分自身のメンタルを守っている。しかしそんな防御体勢を、この映画は全力で引き剥がしにくるのだ。
主人公が抱えている闇や意地悪なオチを、胸クソ悪いと捉える人がいて当然だと思う。しかし本作では、誇張はされているにせよ、誰もが心の片隅に飼っているであろう「病んだ自分」に向き合う真摯さも感じる。絶対に自分はこんなじゃないと思ってはいても、100%他人事だとは言い切れないことが嫌すぎる。しかし、その嫌さにこそ本作の真価と凄みがあるのだと思う。