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かくも長き不在 Comments (6)
「セビリアの理髪師」の一節をくちずさむロベール・ランデと名乗る人物。確信は持てないが行方不明になった夫アルベールではないかと思うテレ―ズ。戦禍が残るパリの街で乞食同然の生活をして哀愁をひきずっている男と、何とか彼の記憶を取り戻そうとするテレ―ズの対比が戦争の悲惨さを伝えます。収容所に入れられて16年の月日が通り過ぎると、本人と判別がつかなくなるのであろうか・・・一人の男を変えてしまうほど戦争が悲惨であるということも感じる。
一番好きな場面は、親戚の二人とアルベールの過去をわざとらしく語り合うシーンだ。オペラはイマイチわからないので、二人で音楽を聴く場面には感動できなかった。残念。でも彼女の優しさは充分伝わります。そして、町中の人が彼の名前を呼ぶ「アルベール、止まれ!」の言葉に、収容所もしくは留置所でのつらい経験が彼に両手を挙げさせるのだ。記憶喪失のドラマ性以外にも戦争による不幸を如実に表現しているシーンだ。
なんということか。心臓がえぐり取られたような感覚になる。
「泣ける」その言葉の薄っぺらさよ。
2度以上の鑑賞をお勧めする。
1度目は、女主人公・テレーズ目線。
その男は、果たして自分の夫なのか?夫に違いない。でも…。
狂信、弱気…、その心の揺れ動きに胸がわしづかみにされる。
そんなテレーズにプライベート空間まで侵入されつつも、優しく応じる男。
そんなテレーズを心配し、一緒に真偽を確かめようとする人々。
そんな顛末が涙を誘う。
2度目は、男主人公・浮浪者目線。
彼に染みついている”記憶”を念頭に置いて鑑賞しなおすと、映画の冒頭から、”あの”記憶は生活の中に潜んでいる。
突然の訪問者に、他に人がいないか確かめる様子。
狭い部屋に入れない様子。
感極まっての大声に怯える様子。…
そんな彼の生活が痛ましく、胸をかきむしられる。
だが、周りの人々は彼の心情をわかりはしない。
PTSDなんて言葉が世間に知られるだいぶ前。
16年。
我が身に振り返れば…。
新婚の頃の気持ちはとうに変わり、子育て・姑等の問題から、熟年離婚も頭をよぎる頃。
体型も変わる。
好みも若いころの肉食系から和食が嬉しくなる。
何をもって、同一人物とするのか。
浮浪者。私の偏見。教養がなく問題行動があり、定職に就けない人々。
だが、この映画に出てくる彼は、
オペラに震え、
招かれたディナーに、贈り物を持参し、
我が身が正装でないことを気にする。
そして、ダンスのホールドの様。
優しくされても、その優しさに付け入ろうとしない志の高さ。
それなりの教養人であることを示す。
そんな人の今のこの生活。
恐怖政治の傷跡。
暴力で人を支配する世の中。
そんなことが二度とあってはならない。
そう思う。
画面内で様々な物語や情景が交錯し、その興味は尽きない。
空間表現と同時にストーリーテリングを兼ね備えたカメラの動きがすばらしい。
音楽や音も非常に効果的に感じるとともに、いずれも質の良さを感じるので、決して古い映画と感じることがない。
叙情的な演出やエンディングに心が動かされる。
テレーザが思い込もうとしているだけなのか。
アルベールはオペラが好きだったというわけでもないのに。
川辺で声をかける前にテレーザが彼の一挙一動を見つめるシーンが長くとられていて、印象的な場面だった。
まず白黒なのに豊かな色彩を感じる美しい映像に感嘆した
ことにアルベールを探して川べりを日暮れ時にさ迷うシーンは美しかった
なんて階調の広さなんだろう
川を遡行する艀の機関音など効果音の使い方も絶品だった
味わい深い映画でした